父のお正月

 病院気付で父に年賀状を送っていた。父は年賀状を見ただろうか。年末年始は病院もいつもの人員ではないので電話をかけたら負担だと思い、父と話すのは4日まで待つしかないと覚悟していた。

 午後、元日でも開いている蔦屋書店で認知症のメカニズムが分かる本を探していた。その時に電話が鳴った。番号に見覚えがないのでどうせ間違い電話だと思い、出なかった。

 ところがあとで見たら留守電が入っていた。聞けば父の声だ。父の声はしっかりしていた。この前のようなふわふわした声ではなかった。わッ!と思って、すぐに病院に電話した。看護師さんに折り返し電話をお願いした。

 すぐに父から電話が来た(正確には看護師さんが父に代わって電話をして、父に受話器をバトンタッチした)。

父が堰を切ったように、

「いつ迎えに来てくれる?」

「お金は帰ったら渡すから。いまお金がないんだよ」

「今晩にも迎えに来てくれないか」

「ここはもう、おれには必要ないんだよ」

 わたしは、

「今晩は無理だけど迎えに行くからね」

「検査がまだ済んでないから、検査が終わったら必ずわたしが迎えに行くからね」

「お金はいいから。もうちょっと待っててね」を何度も繰り返した。

 

H.お父さん、お父さん。今日はお正月だね。明けましておめでとうございます。

T.明けましておめでとうございます。

H.今年もよろしくお願いします。

T.今年もよろしくお願いします。

やっと、父にもお正月が来た。

 

T. は 父さん H. は はちむン