父の説得

2023.1.20

16:17pm

 

H.もしもしー。ひろこですー

T.あー。としおです

H.ごめんね。いま買い物から帰ってきたところでバタバタしてたー

T.いや、どこで?

H.いまわたしおうちにいる

T.うちっていうのはなんの《どこの》うち?

H.わたしのうちっていうのは、高知にあるわたしのうち

T.高知?

H.四国の高知県

T.四国の高知かぁ。そりゃ違うもんね

H.違う?ん?お父さんここには来たことないもんね。前に住んでた家には来たことあるけど、いまのうちには来たことないからね

T.あの静岡のどっかへね、行ってね、静岡のうちに帰りたいのよ

H.静岡にはお父さんのうちはないよ。もうお父さんが手放してしまったからね

T.変なところなんだよ。ここが。どこから言ってさ《言われたか》、まだ聞いてないからさ。自分がどこからどこまで行くって、分かればうれしいんだけどさ

H.お父さんはね、体の調子が悪くてね、そこの病院に入院したの

T.誰が?

H.お父さん

T.お父さん?

H.うん

T.なんてお父さん?誰だ?

H.自分のこと

T.あぁわたしのこと?

H.そうそうそう!

T.わたしのことが?

H.うん。具合が悪くてね、そこの病院に入院したの

T.いや、ここじゃないじゃん《ここじゃないんじゃない?》

H.そこが病院なの。お父さん、今いるところが

T.あ、病院なの

H.うん

T.あ、そう

H.そう。だから先生が退院していいですよって言わないと、そこにいなきゃいけないの

T.あぁそう…誰かここに来てくれねーかなー、それじゃあ

H.うん…迎えに行くけど…お父さん、わたしと一緒に住まない?

T.ああいいですよ

H.ただ静岡じゃないよ

T.静岡じゃないの?

H.そうだよー。だってわたしのうちは高知だもん

T.え?高知?いやぁ、それはちょっと無理だなぁ。静岡のうちに帰ってきてよ

H.静岡のうちはもうないからね。わたしも高知のうちがあるから、静岡には一緒に住めないよ

T.それでもいいから、おれは静岡に行きたいのよ

H.でも静岡に行ってもお父さんと一緒に住んでくれる人はいないよ?

T.いないの?

H.そうだよー。だってみんなそれぞれおうちがあるんだもん。お父さんいきなり一人で行っても、お父さん一人でごはんの支度できないじゃない?

T.出来ないなぁ

H.うん

T.どうしたらいいんだろう

H.わたしと一緒に来てくれれば、ごはんとかするよ

T.うん…いや、こっち来てくれる?

H.もちろん、お父さん退院する時は迎えに行くよ

T.迎えに…来てよ。ここに

H.その代わり、わたしと一緒に行くことになるよ

T.どこに?

H.高知のわたしのうちに

T.高知の…静岡には誰かいるわけでしょ?

H.誰かいても、お父さんのおうちがないから、お父さんが住むところがないじゃない

T.え?

H.お父さんのおうちがあるわけではないから

T.ないのー?《悲痛な声》

H.うん。お父さんのおうちはS区のおうちだよ

T.え?

H.お父さんの、いまの、おうちはS区にあるんだよ

T.S区?静岡はないの?

H.静岡じゃない。お父さんは静岡から東京に出てきたんだよ

T.おれは東京だよ

H.うん、そうでしょう?

T.うん

H.だから東京にお母さんが住んでる家はあるよ

T.え?

H.東京に、お父さんの、奥さんの、みちこさんが住んでる家はあるよ

T.それはわかんないねー

H.みちこさんは分かんないかなぁ

T.こっちに来てくれない?《分からなくなると戻っちゃう》

H.うん

T.お金は払うから

H.うん、ありがとう。だからわたし行くけれども、お父さんはどうしたらいいのかな?

T.ん?

H.お父さんはどうしたいのかな?

T.どうしたらいいか。一緒に帰ってほしいんだよ

H.どこに?

T.静岡、静岡

H.静岡は、しょうちゃんが住んでる家はあるけど、お父さんの家ではないんだよ

T.えー?!

H.だってお父さんの家は東京都S区××にあるんだもん

T.S区××…

H.○丁目▽番の◇

T.それはどこの?

H.お父さんがずっと2階の部屋に住んでたところだよ

T.ああ、2階の《自分の部屋を、なにか思い出した感じ》…ああ

H.大きいベッドがあって、本棚に本がいっぱいあって、そこに住んでたでしょう?

T.ん…ちょっと分かんないなぁ

H.そうかぁ《やっぱりだめか…》

T.ちょっとここへ来てくれないかなぁ

H.うん。いま高知に住んでるじゃない?だからすぐに行けないじゃない

T.すぐに行かないのぉ?

H.飛行機乗って行かないといけないからね

T.あぁそう

H.だからお父さんの退院が決まったら、飛行機のチケットをとってお父さんのこと迎えに行こうと思ってたんだよ

T.あぁそう

H.うん

T.そうしてくれない?

H.うん!

T.ここにいるわ

H.(笑)そうだね!そこにいて

T.ここにいて、来てもらって、ひっぱってもらうと

H.そう。でも、わたしんとこだよ。ひろこと一緒に住みたくないんだったら、あの…別の…

T.ひろこと一緒に、って分かんないからさ

H.え?わたしがひろこだよ

T.ひろことね。いいじゃないの

H.うん。ここね、すごく静岡に似たところだよ《うちの近くにある山や川やお寺などが、父の実家そばにあるものとリンクしている》

T.あぁそう

H.お父さん、静岡みたいな感じすると思うよ(笑)

T.こっちに来てくれないかなぁ。金は出すから

H.ありがと(笑)お父さん、前にわたしにお金を預けているから、そんなにお金のこと心配しなくていいよ

T.ここへ来てくれればいいんだけどねぇ

H.そうだね。退院が決まったら行くから。お父さん、入院してるでしょ?

T.わたしは入院してないよね

H.いや、いまそこで入院してるの

T.あ、そうか

H.だから病院の先生が退院していいですよって言ったら、わたしが迎えに行くから

T.ああそう。そうねー。わたしはそんなとこに行ってないんだからねー

H.お父さんが気がつかない時に調子が悪くなっちゃったからねー

T.そうねー

H.だからしょうがないねぇ

T.じゃあ、来てくれないかな、それじゃ

H.うん、分かった

T.ね。そしたら一緒にそちらに行ってね

H.そうそうそう

T.だからわたし、ここにいるわ

H.そうして(笑)

T.分かる?ここ

H.××病院ね

T.あ、ここ?

H.そう。お父さんがいるところ、××病院っていうの

T.わたしそれ知らないから

H.(笑)中にいると分かんないねぇ

T.うん、そうねぇ

H.そうだねぇ

T.来てもらえる?

H.うん、大丈夫だよ。迎えに行くよ

T.いつ、何時頃って

H.先生に聞いとくね。病院の先生に

T.そうね

H.そうしたらお父さん、安心でしょ?

T.電話してもらえばね

H.遠くにいても、電話して聞けばね、教えてもらえるからね

T.そうしてくれよ。ほんとおれ、もうまいっちゃってるよ

H.(笑)そう?

T.電話はね、みんなが使ってる電話だからね《「電話」という単語はOK》

H.公衆電話かな

T.わたし、ここにいますので

H.(笑)そろそろ晩ごはんの時間だろうから、お腹いっぱい食べてね

T.はい。ありがとう

H.いいえ。それじゃまたね。バイバイ

T.はい

《看護師さんごめんなさい。今日は長すぎました!》

通話時間12分33秒