遠距離父さん

 父が同じことを何度も繰り返し言う様になったのは、わたしがK市に引っ越してから。そんなトシだからねと、現状を受け入れていたけれど、のんきにしていられなくなった。父が母に対して怒鳴るだの手を上げるだの、暴力老人のようなふるまいが顕著になってきたから。人は父を、そのふるまいだけで暴力的と見るけれど、そのふるまいにだって(そんな認知症ぎみの老人にだって)、理由もあれば、背景もある。

 実際「暴力的」ではあっても、「暴力」にまでいたってはいないのに、それでも母にとってはハラスメントだから、まわりはみな母を心配し、擁護する。それはとてもありがたいことで、そういう風に言われれば、一言もないけれど…。

 でも、それでは父の言い分は誰が拾う?

 父にだって言いたいことはたくさんあるはずなのだ。

 日に日に記憶のあれこれが、ほろほろとこぼれていく不安の中で、なすすべのない父が一方的にレッテルを貼られるのは見ていられない。

 父のかわりに父の言葉を残したい。まわりが勝手に貼ったレッテルを、少しずつでもはがしたい。わたしがやらなきゃ父は立つ瀬がない。

 遠隔地に住んでいても、電話で父と話すことは出来る。それで「毎日電話」をはじめた。4か月経った。毎日のやりとりを書きとめて、妹にメールして、父の面白さがどんどんたまっていった。いつか読み返して父を思う時のためにブログにしてしまおうと決めた。

 父は自分のことを書かれるの嫌がるかな。

 まぁいいや。父はパソコンもスマホもだめだからバレることはあるまい。