ハードルいったいいくつあるのか その2

 病院が認めた退院日の期日は3月31日。もともと3か月の入院ということで、父の医療保護入院が認められた。12月16日に入院した父は本来、もう少し早く退院しなければならなかった。それでも迎え入れる長女の家があまりにも遠方のため情状酌量の余地ありということで、特例的に3月末まで延ばしてもらった。

 しかし受け入れ先の長女の家(わが家)の2階増築工事は3月16日時点でやっと1階の屋根が取っ払われ2階の屋根がのったところ。2階は外壁さえない。とても父を迎え入れる状態ではない。

かといってわれわれ夫婦のいる1階は、5畳ふた間と土間。あとは台所・洗面・風呂・トイレでおわり。そこに大人2人と、おとな猫いっぴきがおり、わたしの仕事スペースもそこに含まれる。とても父の介護ベッドを入れる余地はない。現時点で父はどうしてもどこかの施設を一時利用するしかない。

…ということで老人ホームの短期入所を希望していたのだが、契約時の重要事項説明を聞いて固まってしまった。退去時に敷金2か月分、数十万円が戻って来ないのはどうしても納得がいかない。ケアマネさんもそこには同情して下さり、すぐに別の手をあたって下さった。当初受入れ不可だったショートステイに、ちょうど空きが出たとのこと。

わらをもつかむ思いでそちらのショートステイに繋げて頂いた。老人ホームの方は、わたしが手続きを8分方済ませた時点でちゃぶ台を返したので、責任者のかたが敷金の件は撤回しますと申し出て下さった。一度は父を受け入れて下さることになっていた施設が、条件を見直して下さったのだからあらためて契約を締結すべきだったのかもしれない。ただ悩みつつも(敷金のこととは別に)、ここへきてふたつの施設から選択してよいとなると、贅沢にも父にとっての条件のいいところを選びたくなってきた。条件がいいのはショートステイなのだ。

老人ホームは街中にあり、ビルの4階が父の部屋になる予定だった。いま入院している病院の自然豊かな環境とは大きく違ってしまう。父の混乱がどうしても頭にちらつく。

それに比べ、急遽空きの出たショートステイは山の上にあり、個室の前面いっぱいにこれから咲くであろう桜の樹が並木になっている。樹木の多い、いまの病院の環境と非常に近い。

 他にも、老人ホームの手続きで分かったことだが、老人ホームというところは言ってみれば「賃貸の空き物件」を借りる、に値するそうだ(そんなことも知らない。恥ずかしい)。例え短期間であろうと、介護ベッドはもちろん、着替えを入れる引き出しや、洗濯物を干すパイプハンガーの様なものも当事者負担で事前に入れなければならない。

それに比べショートステイは、「1泊いくらで利用するホテル」のイメージなのだという。調度品は全て揃っているので、本人の着替えなど身近なものだけ用意すればいい。介護のサービスも別途契約する必要もない。ショートステイのサービスとして、食事や投薬、入浴も介助して頂ける。1泊の値段では高くつくかもしれないが、父の場合は増築工事さえ済めば引き取れるので、宿泊日数は短く抑えられる可能性もある。いまのわが家には、事前準備が相当に必要な老人ホームより、ほぼ身一つで入れるショートステイの方がはるかにありがたい。老人ホームのかたには申し訳なかったのだけれど、わたしは父をショートステイにお願いすることにした。契約もなんとか済ませた。これで増築工事が完了するまでの父の居場所が決まった。

ところが…。

父を高知に連れて来る3月31日を翌週に控えた金曜日。父が入院している病院から電話が来た。父の主治医はもう人事異動ですでにいらっしゃらないため、別の先生からの電話だった。「お父さんを退院させることが出来なくなった」とおっしゃる。

またもハードルだ。

《続く》