父入院 その5「靴に帽子に大わらわ」

 

 9時30分きっかりに、介護タクシーが来られた。父はなんとかお茶碗のごはんを食べてくれたもののまだ食卓の前に座っていた。

 「お迎え来たから、お父さん行こうか」とわたし。しかし、父は「おれは行かない」という。母のために来て頂いてる訪問看護師さんに、「娘さん困ってるから行ってあげてください」と何度もフォローしてもらった。それでも父の重い腰は上がらない。

 「お父さん、タクシーのメーターが上がっちゃうからもったいない。わたし、頼む人がいないからお願い、一緒に来て」を繰り返す。そうこうして、どうにか父は玄関まで来てくれた。

 玄関までは来てくれたけれど、今度はスリッパの入ってる開き戸を開けては閉めを繰り返す。典型的な認知症的行動がここにも。そしてなかなか靴を履いてくれない。父にさらにお願いを繰り返し、やっと足を靴に入れてもらった。しかし今度は父の足が靴にはまらない。父は靴ベラを出して履こうとしてくれるのだけれど、なぜか入らない。父が「この靴、小さい」と苛立っている。ヤバイ。仕方なくわたしが父の靴の紐をほどいたところで、看護師さんが玄関に来て「それわたしの靴です…」と。ひゃー!!!もう平謝り。

 すぐに父の靴を下駄箱から出してなんとか玄関の扉を開ける。父とともに門を開け、いざ車に乗ってくれるかと思ったら、今度は「こんなんじゃ行けない」と、父が頭髪を手でなでている。しまった!毛糸の帽子だ。父は外出の時に必ず毛糸の帽子をかぶる。わたしは、足が痛い口実で父に付き添いをお願いしているのに、すっ飛んで2階にあがり、父の毛糸の帽子をひっ掴んで階段を駆け下りた。父の頭に被せてあげると、やっとタクシーに乗ってくれた。9時45分。10時の約束に間に合う!