何やかにやと、父の部屋に入るたびに、入れ歯のありかを探すのだが見つからず。
もうこれは、捨てられた以外にない、と結論づけた。
幸い、父が入れ歯がないと言い出した朝から、ゴミの収集は来ていないとのこと。部屋のゴミ箱はすべてあさったがないので、残すは台所の生ごみボックス。もう、ここにしか入れ歯はない。
生ゴミボックスを傾けて、上から丹念に掻き出す。あぁ夏に、「生ごみはマメに袋に入れて捨ててくれ」と母に言っておいてよかった。フレッシュな生ごみ(ん?フレッシュだから生ごみって言うのかな?)は、水分たっぷりで探しにくいが、一応袋に入っているので、上から揉んで、入れ歯の感触がなければシロとなる。しかし、なかなかブツは出てこない。そろそろ出て来ていい頃…そう思って握った新聞広告に包まれた何か…。開くとそこには…
ご丁寧にティッシュに包まれたナマ入れ歯が!
やった!!!
もしも、もしも入れ歯が出て来なかったら、あらためて作り直さなければならない。医者嫌いの父を歯医者に行かせることは可能なのだろうか。歯医者に通わせるために、毎度高知から上京なんて出来ない。オーマイガー!
…という、懊悩から一気に解放された。帰省した甲斐があった。父はもう就寝時間なので、明日の朝、父に入れ歯を渡そう。
しかし、ふとそこで思い出した。訪問診療のSLCさんが、父の介護認定は厳しいかもしれないと話されたことを。
新宿などへすいすい行ってしまう父は、認知症の傾向が多いにあっても、日常行動に問題なしと判断されてしまうかもと。父に入れ歯が戻って、腰痛も痛み止めで抑えられて、元気な父が介護認定の調査に入られたら、誤って捉えられてしまう…。わたしは、SLCさんに朝もう一度電話をして、介護認定に父の入れ歯の有無は関係しないか、伺ってから返却しようと思った。食べられない父はかわいそうだが、行政の支援が得られなかったら、母が倒れる。やむを得ない処置だ。
入れ歯発見の歓喜の舞もそこそこに、わたしは父に見つからないよう、あらためて父の入れ歯を隠した。