父入院 その1「後悔」

 父を入院させた。

 12月14日の電話が、父が自宅でわたしの電話を受けた最後の電話になると思うと泣けて仕方がない。

 病院をあんなに嫌っていた父に、「わたしの病院に付き添いで来て」と嘘を言って、車に乗せた。わたしは父をだました。

 先生の問診で、父は「メガネ」も「電話」も答えられなかった。先生がわたしを指して「この方は誰ですか?」と父に聞いた時に、父はわたしを見て分からないと答えた。でも父は、わたしのことが分からなくなっていたのではない。とっても身近な存在だということは分かっているけれど、娘という単語、長女という表現、ひろこという名前、それらがひとつも頭に浮かばないのだ。父の目がそう言っていた。だからわたしは、父に分からないと言われてもさびしくはなかったけれど、でもいつかわたしのことを身近な存在だという感覚も、消えてしまうのかなぁと、それは思った。

 父は介添えのかたに連れられて、CTの検査のため部屋を出た。父と何も言葉をかわせなかった。それが猛烈に悔まれる。だまして連れて来たことを、父がわたしのことを分かっている時に謝りたかった。