2022.11.13
前回の帰省の時に、自宅に入る曲がり角のところで、お向かいのお宅のご婦人と目が合った。会釈したけれど怪訝な顔をされたので、わたしと分からなかったのだろう。わたしが実家の門を開けるのを見て、初めて件《くだん》の家の長女だということが分かった様で、わたしがもう一度挨拶すると、つかつかと近づき鋭い表情で、「あなた知ってるの?」と。
「お母さん、大変なことになってるのよ。知ってるの?」
「お父さんの怒鳴り声が近所中に響き渡ってみんなお母さんのこと心配してるのよ」
「夜中でも出て行けという声が道の向こうの家にまで聞こえてるのよ」
わたしはすみませんを連発するしか出来なかった。
「あなた知ってるの?」のあとに続いた事実は全て承知していたけれど(だからこそ帰省しているのだけれど)、こういう時、遠方に住む娘はどうしたらいいのだろう。
母を心配して忠告してくれているこの人に、感謝しかないが、わたしはいまも「あなた知ってるの?」という言葉を反芻している。つまり一旦おなかにおさまったその言葉が、何度払ってもきれていかないモヤのように、気体になっていつまでも目の前を覆っているのだ。
「あなたは知ってるの?」
2022年11月のわたしの記録。