投薬&服薬の壁

2022.11.24 つづき

 

 夕方母から電話があった。父が大変だと言う。

聞けば新宿で腰が痛くて動けなくなり、消防の人に助けてもらい、病院に連れて行ってもらったとのことだった。家族に迎えに来てもらいたいと言われたそうだが、母は足が悪く行けないので、タクシーで自宅まで帰ることにしたとのことだった。

 「大変」といっても、タクシーで帰って来れる程度のことでよかった。

 母には、父が帰って来たら、絶対にネガティブなことを言わないで、「大丈夫だった?」「心配したよ」など、大げさに、ひたすら優しい言葉をあびせてと厳命した。

 おそらく父は、腰の痛みと体裁の悪さで少なからずストレスを抱えているはずなので、母の態度次第でいきなり暴発するとも限らない。「なんでそんな遠くまで行ってたの?」だの「もう出かけないで家にいて」だの、問い詰めたり、命令口調で話したりすれば、ピキっと来て「出てけ!コノヤロー!」が始まるだろう。これは避けないといけない。

 父はお腹を空かして帰ってくるはずなので、「夕飯の支度すぐするからね」とか「お茶入れようか。すぐ沸かすね」とかも効果的だから言って、と母にお願い。

 「すぐ、すぐと口で言っても、全然急がなくていいから。出来上がるのが遅くても、「すぐ、すぐ」言ってれば怒らないはずだから」

 おそらく父は「さっき、すぐ出来ると言ったじゃないか」とは言わないはずなのだ。ちょっと前に聞いたことも、ありがたいことに覚えていないから。

 

 指示通り母がうまく立ち回ったかどうかは分からないけれど、10時過ぎに母に電話したところ、すったもんだはなく平和に過ぎたとのことだった。

 今度の帰省の際、訪問診療の先生に父を引き合わせる予定だが、腰の具合を見てもらうついでに、血圧の方も診てもらう。その際、血圧の薬を「腰の痛み止め」と言って渡して頂ければ、さすがの父も捨てずに飲んでくれるのではないかと期待している(以前父に内緒で、認知症の検査を受けてもらった際に処方された薬を、父はその日の晩に全て捨てた)。

 血圧、上200超はかなり心配と、どの方からも言われている。投薬&服薬の壁を越えるのが目下の課題である。

 血圧は自覚症状がないので、毎日薬を飲むといった新しい習慣は、いまの父には無理で、本当に頭を悩ませている。母が薬を飲んでと言おうものなら、激しく怒り出すのは目に見えているし、ヘルパーさんをお願いするための介護認定も絶対にのってくれないだろう。ごはんにしのばせて一服もるか(←血圧の薬のこと)…とも考えたが、偏食の父が変な味のものを飲み込むわけがない。なんでもティッシュに包んで捨ててしまうので、それもダメ。壁を越えるのは至難の業である。